私好みの新刊 202111

『沖縄自然探検』(岩波ジュニア新書)  盛口満/著  岩波書店

 著者の盛口さんは、早くから自然を趣味に東京で活躍されていた。生物に関す

る著書も多い。その盛口さんは2000年に沖縄に移住され夜間中学の理科の教員と

して赴任された記録『めんそーれ化学』(岩波ジュニア新書)は沖縄人の風習がに

じみ出ていて興味深かった。授業のあり方も問われる一冊だった。その盛口さんが、

今回沖縄各地の生物について気楽に話されている本が出た。『沖縄自然探検』とは、

少々堅苦しい題名だが、本土に住む従妹たちに沖縄を案内というスタイルで気楽に

読める。沖縄と一口に言っても島が多い。沖縄本島のほかに、与那国島、石垣島、

西表島、宮古島をめぐる旅に出る。こういう島国なので島固有の生き物も多い。

どんな生き物が棲んでいるのだろうか。

 話はまず沖縄本島の港から始まる。沖縄でとれた魚が並ぶ。赤い魚など深海の魚

が多く目につく。琉球海溝が近いからか深海魚が多い。沖縄南部は新しい琉球石灰

岩が出ている。その大地で見られるのがガジュマルの木。気根が上まで伸びる変わ

った木だ。ここには石灰岩台地が大好きな動物カタツムリが豊富にいる。・・マイ

マイが多く見つかる。オキナワヤマタニシという固有種にも会う。カタツムリを餌

にする陸生ボタルの幼虫もいる。夜の散策をすると・・オオコウモリがかすかに見

える。2匹枝にぶら下がっているようだ。

 翌日は、沖縄島北部へ。北部は地質的にも南部とは大きく異なる。ヤンバルと呼

ばれている。 

海岸を見て、ヤンバルの森へ。沖縄南部とは植生も違ってくる。ヒカゲヘゴなど繁

茂する下に固有種のシリケンイモリがいる。天然記念物イボイモリもいる。すると

落ち葉のかげに・・ヘビ発見、ヒメハブだった。こちらは毒性は弱い。湿地なので

キノコも多い。オオセミタケ、ヤンバルヤツロランなど見つかる。昼食が終わって、

少し高台に足を伸ばすとオキナワウラジロガシの木が見えた。このドングリはとて

つなく大きい。ヤンバルクイナの鳴き声を聞く。

 こんなふうに沖縄各地を巡り歩く。与那国島、石垣島、西表島、宮古島と旅は続く。

                         20216月 920円 

 『チバニアン誕生』  岡田誠/著   ポプラ社

数年前、地質界をにぎわした「チバニアン」について、その意味するところから

誕生までのいきさつを中高生対象に語りかけている。「チバニアン」というのは、

国際地質科学連合という組織が作っている地層の年代表に記載された名称である。

地質学では、古生代、中生代、新生代と言った年代区分をさらに細かくした年代表

(層序表) を作成している。その一つに、日本の千葉県の地層が決められた。著者は、

その千葉県の地層が国際年代層序表に認められるように研究成果の取りまとめをし

た人である。

はじめに、地質界には国際年代層序表のあることを説明している。その中の新生

代に4つばかりの地層区分があり、その一つに「チバニアン」(77万年前)が認めら

れたいきさつを書いている。周辺の他の層序表はイタリアが多い中日本の地層が認

められたのは珍しい。では、なぜ千葉県の地層が国際的な層序表に認められるよう

になったのだろうか。

一つは、地球の磁場が逆転した記録がしっかりと残っていることにある。地球は

過去何回も地磁気の北と南が逆転していたことがわかっている。今方位針は日本で

は北を指すが(ということは北極近くがSになっている。)ちょうど774000年前、

火山灰をはさむ地層の前後で磁極がNS逆転していた。

地層の区分は化石の違いなどで区別されてきたがこのあたりは花粉化石等だけで

ははっきりしなかった。ちょうどその時代区分をはっきりさせたのが地磁気逆転の

痕跡だった。おまけに間に火山灰がはさまれていて時代特定の指標にもなった。

千葉県の養老川に見えるこの地層は、分厚い泥岩が層をなしていて地磁気変化を調

査しやすい層でもあった。

 本文では、地磁気逆転の説明、またそれを地層に記録している鉱物(磁鉄鉱)の説

明が多々あるが、ここだけの解説だけでは完全な理解は難しい。そういうものかと

読み飛ばせばいい。

後半にある「めざせ、チバニアン承認。国際レースにいどむ」が、著者たちの努力

のあとがわかりよく書かれている。一つの学術的な成果が国際的に認められるまで

のいきさつは、まるで学者間の国際レースだった。 

                         20216月 1,500

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